山手線に新駅

『山手線に新駅ができる本当の理由』(メディアファクトリー、2012年)より抜粋

■新駅は「日本再生」シナリオの舞台となる

JR山手線に乗ってぼんやり車窓の外を眺めているとき、ちょうど田町から品川に差しかかるあたりで、ぽつぽつ車両が止まっている、巨大な空き地のようなものを見かけたことはないだろうか。

いや、この空間を目撃しているのは、何も東京圏に住む人ばかりではないはずだ。たとえば、関西方面から東海道新幹線に乗って東京に向かっている人も、品川を過ぎたあたりで、進行方向左側にこの巨大な空き地を見ることができるのだから。あるいは、全国各地の空港から羽田空港へと到着し、空港から京浜急行線で都心に向かう際、泉岳寺駅に向かって地下に入る直前に、この無用に広く感じる空間に気づく人は多いのではないか。

山手線の品川駅から田町駅にかけて広がっている、面積約20haの巨大な空間。これはJR東日本が管轄している品川車両基地だ。そしてこの巨大な空間こそ、これから私が本書で語っていこうと思う、「日本再生」のシナリオの舞台となる。

この空間については、2012年1月4日、5日の新聞全国紙で、実は大きく取り上げられていた。「山手線40年ぶり新駅」。そんな見出しを覚えている人もいるかもしれない。品川車両基地、つまりこの巨大な空間の一角に、山手線30番目の駅が2020年をメドに建設されるというニュースである。

あのときはさらりと聞き流した人も多かったようだが、都市政策を専門に研究している私にとっては、久しぶりに心躍るビッグ・ニュースであった。もちろん、JR東日本にこうした動きがあることは知っていた。だが全国紙の紙面で改めて読むと、感慨もひとしおであった。

ニュースの急所は、「品川-田町駅間に新駅ができる」という点だけではない。「新駅を拠点に、品川周辺地域が再開発される」というくだりが重要である。なぜなら、山手線沿い、それも港区高輪・港南という都心の一等地で、これだけ大規模な再開発が行われる機会は、おそらくこれが最後だと思われるからだ。

私はこれまで、都市政策専門家として、車両基地(操車場)跡地の再開発事例を全国各地で見てきた。カナダのトロントなど、海外の事例も数多く視察した。だが、こんな都心のど真ん中で再開発が行われるケースは、そんなに数はない。そういう意味で、JR東日本は大事に取っておいた最後の切り札をここで切ってきたともいえよう。吉と出るか、凶と出るか、一世一代の大勝負である。

今回の再開発は、当事者であるJR東日本が考えている以上に、実際には爆発的なインパクトを秘めている。なぜなら、品川は21世紀前半のわが国において、まさに「選ばれた土地」だからだ。JRは10年ほど前にも、新橋駅近くの「旧国鉄汐留貨物駅跡地」において、「汐留シオサイト」と呼ばれる都内最大規模の再開発を行った。今回は、それより敷地規模はひと回り小さい。しかしその立地と10年前とは異なる時代背景のもとで、再開発の持つ意味が大きく異なっている。

詳細は追って解説していくが、時代の流行やトレンドを表すベクトルの多くが、いまははっきりと品川を向いている。そんな品川でいま花火を打ち上げれば、それが起爆剤となって東京全体に活気がよみがえり、さらには日本全土に爆発的なパワーが伝わっていく予感がするのである。

決して、東京ローカルの話ではない。品川の再開発が成功すれば、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)、日本橋、六本木・虎ノ門など先行する都心再生プロジェクトの仕上げがなされ、それらの相乗効果によって、日本全国の活性化が期待される。わが国の経済成長率がかつてのバブル経済のようなレベルになる、とまではいわないまでも、再び世界とアジアの雄としての活躍をする。要はそういった類たぐいの話になるはずなのだ。

問題は、多くの人がこのプロジェクトの重要性に気づいていないことだ。もしかするとJR東日本自身、事の重大さを充分に認識していない可能性もある。

だからこそ私は、本書で訴えたいと思った。これからスタートする「山手線新駅開業と品川再開発」が、わが国全体の命運を担っている重要なプロジェクトなのだということを。それだけに、安易な手法で終わらせてはいけない。官と民が一体となって知恵を出し合い、再開発を必ず成功へと導いてほしい。そして私たちは、ただのプロジェクト傍観者に甘んじるのではなく、歴史の生き証人として、品川再開発が適切かつ有効に行われているかどうかを、きちんとチェックしていくべきであろう。

山手線に新駅ができる今回のプロジェクトで、私たち日本国民の暮らしにはどんなメリットがもたらされるのか。私が語りたいのは、実は山手線の新駅だけについてではない。わが国が目指すべき明るい未来の話である。

なにかと暗いニュースばかりの世の中ではあるが、山手線新駅のニュースをどうかわが国の希望の灯りだと受け止め、最後まで明るい気分でお読みいただければ幸いである。